初めての証券会社

Y堂の銀行参入に前向きではなかったとされる金融再生委員長の越智通雄は2月に金融機関の検査に手心を加えると受け取られかねない発言が国会で問題となり辞任に追い込まれた。
後任に元科学技術庁長官のTが起用されたばかりだった。 Y堂グループだけでなく、Sなどが銀行業参入を表明しており、ガイドラインの内容次第では事業計画そのものの変更を余儀なくされる可能性があった。

ただ明確なガイドラインが示されることは、それを乗り越えれば新銀行設立の道が開けることを意味していた。 公正な物差しを示してくれることは、異業種参入組にとって一歩、前進でもあった。
SとUが加わり新体制でスタートを切った5月中には、ガイドラインの概要がおぼろげながら伝わってきた。 その内容は相当厳しいもので、参入条件として「3年以内の黒字化、5年以内の累損解消」の項目が盛り込まれていた。
普通の新規事業でも3年の黒字化は高いハードルである。 未知の銀行業だけにまさに手探りに近かった。
Rにしてみても、銀行側の常識で新銀行の事業計画を精査すると採算性に問題があると見ていた。 焦点は1日あたりのATM利用件数という新銀行にとって収益の根幹にあたる部分の見積りだった。
Y堂側とRはその溝を埋めるべく協議を続けた。 Y堂側が作成した事業計画では、1日1店舗あたりの利用件数は初年度の7十件から5年目には915件まで増加すると想定した。
これに対しRはせいぜい6件しかないと踏んでいた。 それは全国にある13万台のATMの利用状況からはじき出したもので、数字の根拠はしっかりしていた。

当時、中堅コンビニのEやFがATMを設置していたので、その利用件数を引き合いに出しY堂側に事業計画の修正を迫った。 SやUは、Sの1日あたりの来店者数や売上高がほかのコンビニに比べて2割以上多いことなどを説明し、粘り強く説得に当たった。
だが、Rは「お金を引き出しに来る人にとっては、どこのコンビニであろうと変わりはないはず」と反対意見を述べた。 ただRは、あらゆる事柄を数値に落とし込んで検討するY堂側の強気な見込みは、必ずしも「はったりではない」という認識を持っていた。
ある銀行の幹部はSの強さについて、外部からこんな話を聞いていた。 98年に規制緩和の一環でビタミン剤やドリンク剤の販売が一般の小売店でも解禁になり、コンビニでも扱うことになった。
著名なドリンク剤メーカーはコンビニにおける販売数量を試算した。 試算の根拠となったのは、コンビニ各社の店舗数の多寡の比率だった。

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